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世界が終わるまで12


「……それで良いのか」
「あ? なにが?」
「俺は守られているだけで良いのかと聞いているんだっ」

単細胞であることは分かっていたが、まさかそこまでスケールの大きなバカとは
思わなかった。
命を張って守ると言われれば嬉しくなくはないが……恥ずかしすぎる。
思わずホロリとさせられた照れ隠しも手伝い、勢い語調がキツクなってしまうが、
このガタイ、この性格で、可愛く甘えたふりなど、今更できるわけがない。

「なんで一緒にと言わない」
「だってよ、おまえデスクワーク向けになっちまったじゃねぇか」
「うっ……」

否定はしない。いや、できない。
剣道部を辞めてから、労力を強いられるのは苦手になった。
肉体労働が苦手とは言わないが、俺は頭脳派に変貌したのだ。
弁護士は知力体力共に充実していなければとても勤まらないが、走り回るだけで
事が解決できるほど単純な仕事ではなく、人より頭を使ってナンボの世界だ。
とは言え、ブレーキのイカレたブルドーザー並みに強引に押し切り、なんでも
体力勝負に持ち込もうとする川田とは対極にいようと、意地になりすぎていた
かもしれない。
今ならばその理由は明らかだ。

「まるで割れ鍋に綴じ蓋だな」

そう言って笑った川田の顔が真顔に戻る。

「頼むから壊れないでくれよな」
「……そんなにおかしかったか、俺は」
「ぞっとした。もう二度とごめんだ」

あの日から、どれほど川田に救われて来たことか知れない。
茫然自失となった後にやって来た、突然のパニック。自分でも気が狂ったと
思ったあの日から、俺は川田に依存しながらも、どこまでも阿世賀先生に忠実で
あろうとした。
あの人がもう存在しない事実に蓋を被せ、自分だけが生き続ける理由を憎んだ。
川田の眩いばかりの生命力に救われ、どうしようもなく惹かれながら、それは
阿世賀先生の存在を否定することに繋がるようで、自分で自分を許せなかった。
あの人を奪った世界を、生きろと強要した川田を、川田に依存する自分を憎んだのだ。


抱き締められるままに体を預ける。
この体温を覚えておこう。
耳をくすぐる声を刻んでおこう。
昨日の川田でもなく、明日の川田でもない。今日の川田を覚えておこう。

「なんでおまえみたいな奴が、黙って俺なんかに抱かれてるんだか、ずっと分からなくてさ。
 だけど、俺はハルじゃなきゃダメだし、多分、おまえも同じなんだろうって思っててよ。
 俺がおまえの体温じゃなきゃ感じないように、おまえもきっと同じなんだろうってさ。
 抱いてんのは俺のはずなのに、時々、おまえに抱かれているような気分になるんだよ。
 抱いているはずなのに、抱かれて、抱き合って、満たし合うのが堪らなく良い。
 おまえの中に俺がいるように、俺の中にもおまえがいて、お互い孕み合ってんだよな。
 なぁ、36度ってのは、そういうことなんだろ? それって生きてる温度だよな。
 おまえの中の阿世賀さんを消す必要なんかないんだ。阿世賀さんごと俺のものになれよ。
 ハルはハルだから良いんだ。他に理由なんかねぇんだよ」

鈍いくせに、サラリと言ってくれる。
川田の不安は、そのまま俺の不安だ。
何故、川田でなくてはいけないのか……結局、いくら探しても、どこにも理由など
ありはしない。
ただ、俺には川田でなければダメだという事実があれば良いのだということに、
今頃になってようやく気づいた。

「俺とおまえは全然違うよな。違うから良いんだ。それで良いんだよ。大体、
 俺が二人もいたら気持ちが悪くていけねぇや。だってそうだろ、それじゃ
 マスターベーションと変わらないじゃねぇか」

器からはみ出すような川田を、俺が満たしてやれているとは到底思えない。
だが、こいつが満たし合っていると思うなら、俺を孕んでいると感じるのなら、
俺がして来たことは馬鹿げた独りよがりで終わらずに済む。
男同士で孕み合うなどと、不毛なうえに気色悪いことこの上ないが、俺達には似合いだ。

「……なるほど。良く分かった」
「そうか。んじゃ、俺、絶対死なないからよ、SATか自衛隊に行っても良いよな」
「止めたところで聞くようなタマか。そうだな、俺は志望先を一時保留にしても良いぞ」
「ああ? おまえ、なに言ってんだ」
「守られているだけで俺が満足するとでも思ったか。だからおまえはバカだと言うんだ」

たった今、生まれ落ちようとしている赤ん坊も、18の夏を生きる俺達も、78の祖父も、
誰もが命の終焉に向かって一所懸命に生きている。
限りある生命だからこそ眩く輝き、愛しい。
たったの三年でも、共に過ごした時間は濃厚で、忘れ難いものになるだろう。
思い出という名の凝縮された時は、やがて天使の分け前となり、俺達の間を満たすのだ。


自分が死ぬのは怖くないが、愛する者を失うことは怖い。
置いて逝かれる恐怖感は理屈では克服できない。
祖父の足を奪った戦争も、美香子さんの命を奪ったテロも、阿世賀先生を奪った
飛行機事故も絶対に許すことはできない。
川田までをも奪われるかもしれない恐怖に、毎日怯えて暮らすなど真っ平御免だ。
同じ生きるのならば、笑って過ごしたいじゃないか。

「弁護士になるんじゃなかったのかよ! なにも俺にくっついて来るこたねぇんだぞ。
 ハルはハルだから良いんだって、今話したばっかじゃねぇか」
「安心しろ。T大法学部には行く」
「その後はどうする気だ。まさか……」
「国家公務員?種試験を受ける」
「なんだとぉ」

どうせ川田のことだ。馬鹿正直にノンキャリアから這い上がるつもりだろう。
ならば俺は真っ直ぐに警察庁のキャリアを目指す。
キャリアならば入省した時点で警部補、三年半の見習い期間終了後には警部だ。

「知っているか。歴代の警察庁長官も警視総監もT大法学部出身が多いそうだ」
「……」
「しかもだ、警備・公安畑出身がご歴代の半数を占める」
「おまえっ、親父のところに行く気かっ」
「さあな。SATだかSPだか知らんが、そいつも警備部だったような……」

慌てふためく川田の顔を見るのは小気味が良かった。
俺を泣かせた罰だ。
あの日、川田がいてくれたから、俺はこうしてまだ生きている。
一番大切にすべきは、残された思い出じゃない。生きている人間なのだ。
予定していた人生とは大分変わってしまったが、あの人も笑って許してくれるだろう。
あんたが呼んだように俺を「ハル」と呼ぶこいつを信じる。
俺が憎んだ世界を守ると言うこいつを信じよう。
そうしたら、俺もこの世を再び愛せるようになれるだろうか。
あんたが生きた世界を、俺達が生きるこの世界を愛したい。


それで良いんだろう? なぁ、先生。

終(以下、あとがきもどきです)

これにて「世界が終わるまで」(川田高須編)は一旦終了です。
12日間のご愛読ありがとうございました。
実はここまでが前編でして、ということは後編もあるのですが、そっちは
まだ編集してません。
なんせ元ネタが学園ヘヴンの二次なので、海野先生や七条さんが登場しちゃうのです(笑)
海野先生や七条さんを誰に置き換えれば良いのか、考え付かない!
しかも、これが終了する頃にはSSの2本や3本できあがっているだろうと思ったの
ですが、上がりませんでした(汗)
かなり加筆訂正してしまったので、そちらに夢中になってしまったと言うのが真相です。
気楽に始めた日記連載小説でしたが、いつの間にか気合入ってました(笑)
お楽しみ頂けましたならば幸いですv

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