お江戸パラレル３

切り絵図を「ない、ない！」と家捜ししていたら、今朝になって夫が「これじゃないの」と
ひょいっと出してくれた。
……最初に夫に聞けば良かったのか。４日も無駄に探してしまった。
しかも「Yahoo!でいいもん見つけたよ」と古地図と現代地図を重ね見ることができる
サービスをクリック……なんてこったい。こんな便利なもんが出回っていたなんて！
ほんとにこの４日間はなんだったんだ。
それはともかく、古地図をじーっと見ること一時間。
やっぱりなー、まずかったかなー。
川田屋の場所が問題だなーと思ってはいたが、神田じゃ金物職人の町になってしまう。
どうしようか。うーんうーん。
とりあえず本石あたりに直しておいて、お江戸パラレル３でお茶を濁してから考えよう（汗）

この絵通りならば、さぞかし匂い立つよな美人だろう。
川田屋に錦絵を持ち込んだ絵師が臭い。そいつを洗い出せば、女の行方も知れるというものだ。
今月は北町の月回りだが、幸い今のところ大きな事件もなく、ブラブラと市中見回りを勤めて
いた寒河江は暇を持て余していたところだった。
錦絵の女にも会ってみたい。おいたが過ぎる川田屋に灸を据える良い機会でもある。
どうにも乗らないはずがない話だった。

「俺は川田屋をちょいと覗いて来るとしよう。なに、お役目で立ち寄ってみたと言えば良い話だ」

圭祐と別れた足で、寒河江は本石の川田屋へと向かった。
日本橋へと抜ける大通り沿いにある川田屋は、元は外神田で古着屋を営んでいたと聞く。
古着屋時代から仕立ての上手い針子を抱えていると店の評判は上々で、あっと言う間に本石まで
足を伸ばして大店にのし上がった呉服屋だ。
噂では先代の頃から江戸橋越えを狙っているとかいないとか。
町方が商家を回ると言えば、袖の下を受け取りに行くものと相場は知れている。
のれんを割って「お邪魔するよ」と顔を覗かせれば、一目で同心と分かる黒紋付姿の訪問に番頭の
笑顔が凍りついた。
川田屋は北町奉行所の同僚同心、高須の立ち寄り先であることを寒河江は思い出し「高須とは関係ねぇ。
お江戸を一回りしたところで近くまで来たもんでな。茶を一杯貰えないかと寄ってみた」と苦笑した。
「左様でしたか。お役目ご苦労様です」と額の汗を拭う番頭を見れば、高須のタカリっぷりが伺えると
言うものだ。
江戸っ子は地味な佇まいの中に粋を見るものだが、上方出身の高須は派手好みと来ている。着る
物も派手な大柄を好み、同心に多い八丁堀小銀杏と呼ばれる細く小さな髷を嫌い、今流行りの
本多髷を結っている。それでお役目に差し支えないのかと尋ねてみたが、どこ吹く風だ。

「高須は相変わらずなのか」
「いえ、そのようなことは……ただ、このところ三日と開けずにいらっしゃるものですから」
「ほぅ、高須がねぇ」
「さすがに主も困り果てておりまして」
「腐れ同心がいないとは言わないが、いかに派手な高須でもそこまで腐っちゃいないだろう。なにかあったか」
「てまえはなにも存じません。ただあまり頻繁に旦那方に出入りされては商売の方が……」

同心が足しげく通う店となれば客足は遠のく。
なにかの時には宜しく庇い立てして貰う腹積もりの店主と言えども、毎日のように通われては
確かに堪らないだろう。

「主には気の毒だが、自分で蒔いた種だ。多少のことは我慢して貰うしかねぇな」
「いえ、それが若旦那にお会いにいらっしゃるのです。まだまだ主は健在とは言え、いずれ川田屋を
　継ぐのは若旦那ですし、まかり間違いでもして旦那方の……」
「それはねぇな」

いくらなんでも大店の若旦那を小者に抱えるような馬鹿はいない。番頭の考え過ぎだ。

「それならば宜しいのですが、あのぅ、高須様にそれとなく言っては貰えませんでしょうか」
「分かった。話してみよう」

それにしても、主ではなく若旦那を訪ねるというのが解せない。
うなずく寒河江にホッとしたのか「よろしくお願い致します」と番頭の腰が深く折れた。

つづく(^^;